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唇の傷

高嶺の花は見上げるより登るに限る

縄を引きちぎることはで


「はい、猊下。黒い甲冑を着て、パンディオン騎士団の旗を持っておりました。ラドゥン伯爵は教会と騎士団を深く尊敬していることで有名なお方でございます。ですから騎士たちはすんなり中へ通されました。ところが城内に入ったと康泰自由行たん、そいつらは剣を抜いて、目につく人間を片っ端から殺しはじめたんでございます」
「叔父上は!」ドレゴス王が叫んだ。
「もちろん伯爵は応戦しようとなさいました。でもたちまち武器を取り上げられてしまい、中庭のまん中で杭に縛りつけられてしまわれたのです。そいつらは城の中にいた者たちを皆殺しにして――」
「皆殺し?」ふいに険しい顔になったアニアスが口をはさんだ。
「そいつらは城の中にいた者たちを皆殺しにして――」テッセラは口ごもった。「ああ、この部分を忘れるところでした。そいつらは城の中にいた者たちを聖職者以外[#「聖職者以外」に傍点]皆殺しにして、それから伯爵の奥様とお嬢様方を連れ出し、服を剥《は》いで裸にして、伯爵の目の前で暴行したのです」
 アーシウム国王は嗚咽《おえつ》を洩《も》らした。
「叔母上と従姉妹《いとこ》たちを」泣き声になっている。
「しっかりするんだ、ドレゴス」ウォーガン王が片手をドレゴス王の肩に置いた。
「そいつらは伯爵家の女性方をことごとく、くり返し凌辱《りょうじょく》すると、今度は縛られている伯爵の前に一人ずつ引き出して、喉《のど》をかき切りました。伯爵は泣きながら何とか手を自由にしようとなさったの陶瓷曲髮ですが、きませんでした。パンディオン騎士にやめてくれと嘆願なさいましたが、やつらは笑いながら虐殺を続けました。とうとう奥様もお嬢様方も全員がみずからの血の中に倒れると、伯爵はなぜこんなことをするのかとお尋ねになりました。すると中の一人、たぶん指揮官らしい男が、パンディオン騎士団長ヴァニオン卿の命令だと答えたんでございます」
 ドレゴス王が弾《はじ》かれたように立ち上がった。涙を隠そうともせず、剣の柄を手さぐりしている。その前にアニアスが進み出た。
「陛下、お怒りはごもっともです。しかしこの極悪非道のヴァニオンには、素早い死を与えることさえ慈悲が過ぎるというものでしょう。まずはこの正直な男の証言を最後まで聞こうではありませんか。テッセラ、話を続けなさい」
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